武者小路実篤「友情」

作者・作品紹介

武者小路実篤 (むしゃのこうじ さねあつ)

武者小路実篤は,1910 (明治43) 年に志賀直哉,有島武郎,柳宗悦らとともに 文学同人誌「白樺」を創刊し,同誌を中心とした文芸思潮「白樺派」の支柱として活躍した, 大正から昭和戦後にかけての日本文学史を代表する作家です.
白樺派のメンバーらは,大正デモクラシーをはじめとする自由主義の台頭を背景として, 自然主義の退潮に代わって理想主義,人道主義を標榜した作品を多く制作しました.

『友情』

売れない脚本家の野島と新進気鋭の作家である大宮は, 互いの厚い尊敬で固く結ばれた親友であった. ある日,野島は帝国劇場で出会った美しい杉子に熱烈な恋心を抱いた. 彼から恋心を打ち明けられた大宮は,彼の恋を後押しするために奮闘する. しかし杉子が愛するのは野島ではなく,大宮であった ―――

友情と恋愛の相剋に苦しむ内面を鋭く描き出した武者小路実篤の中篇「友情」は, 1919 (大正8) 年に大阪毎日新聞に掲載され,翌年に単行本が刊行されました. この作品は,片思いの悲恋を描いた作品であるという点において, 1911 (明治44) 年に刊行された中篇「お目出たき人」と類似しています. しかし,夏目漱石やメーテルリンクに大きな影響を受けて執筆された「お目出たき人」が 主人公の純粋な恋愛感情を一人称的に描いているのに対して, 「友情」はより客観的に,野島と大宮の内面の格闘とその結末や, そこから人間的な成長を誓う野島の意志力を克明に描いています.